確かに都市そのもののあり方が、今、全世界的に変わりつつあるといっていいかと思います。昨年、愛地球博が開かれまして、私は総合プロデューサーを仰せつかっておりました。目標の入場1500万人を8月18日に達成して最終日の9月25日には2205万人に達しました。今度の博覧会は150年の歴史の中で、画期的な面が3つありました。一つは森の中で行われた万博だということです。これ自体が実は21世紀のまちづくりを現しております。今までは森を切り開いて、そこにさまざまな交通システムを整備し、居住条件を整えていくということが大事だったわけです。
例のニューヨークの9・11事件の直前にフランスの経済誌レクスパンシオンが、全世界の215都市をピックアップし世界の幸せな都市はどこかという特集をしました。一番はパリでもニューヨークでもありませんでした。パリは33位、ロンドン40位、ニューヨーク44位と意外とふるわないわけです。1位になったのはカナダのバンクーバーとスイスのチューリッヒでした。基準が違うんです。どういう基準で幸せを測ったか。いい土、いい空気、いい水のような自然環境と都市的な便益が、いかに上手くバランスを取っているか。それによって住みやすく、働きやすい都市はどこかと。これが幸せの第1要件になっていたわけです。
バンクーバーなどはいい自然と都市的な便益とがバランスが取れており、暮らしと命に安心と安全があるという点が評価されているわけです。チューリッヒの場合もそうでして、あそこは金融インフラを持っているだけでなく学校と医療がよく整備されており、ここにも暮らしと命の安心と安全が確保されているところが評価されているわけです。
安心と安全というのは、ワンセットで言われますが、必ずしも重なり合わないところがあるわけです。安全というのは数字になるものです。食品でいいますと、この食品には有毒色素は入っていませんとか、あるいはグラムはしっかり入っていますとか、このような数字になることで、近代が追求したものです。現代は、さらにその上に心の安らぎというものがある。心の安らぎは数字になるものではなく、なかなかこれはやっかいです。
私の娘は小学校4年と中学3年の孫を2人生んでおりますが、娘自身が中学校時代に学校の給食メニューというものを持ってきたんですね。それを見ますとおでんにパンにバターと書いてある。栄養バランスは整っていたかもしれませんが、何となくこれは心が騒ぐんで安心がないんですね。昔からやっているものには安心があります。逆に鍼とか灸の類い、和漢薬治療は今でも科学的にはよく分らないところがありますが、昔から使っていて西洋医学では分らないような全身の機能失調のようなことには鍼灸とか和漢薬治療がよく効くということをわれわれは経験上知っています。長い間、先祖の知恵を生かしてやってきたところには安心があります。
ということで、今、歴史がプラス価値になってきました。私はもうすぐ76歳ですが、われわれが若いときは過去のことなどはあまり評価しない。前へ前へ進んできたんで、昔考えているよりは今日考えていること、今日考えていることよりは明日考えていることの方が新しいと思って進んできましたが、いまそれがグルッと変わりつつあります。
世界遺産条約が1972年、パリのユネスコ総会で全会一致で決められ、日本も各地の文化遺産とか自然遺産が登録され、この地区の富士山も世界遺産に登録しようと、今動き出しているところです。昔のものは古臭いものではない。いい文化遺産、自然遺産は全人類にとっても宝だからわれわれは保全する義務があると云う風に国連の科学文化機関が決めたわけです。今、これがあちらこちらで新しい観光の魅力を呼んでいるのはご承知の通りです。
というわけで、昔あるものは古くて悪いもので、最近出来たものがいいものだというこの気持が変わったわけです。先祖の持っている知恵の意味が分ってきているんです。
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