「耐え忍ぶ年」
今年の日本経済が厳しいものになるであろうことは衆目一致するところだ。「垂直落下」とも表現される実体経済。株価は戻らず、円相場も1ドル=90円台で高止まりし、産業界からは嘆き節が漏れる。新年にもかかわらず明るい展望は少なく、「底抜けしないよう耐え忍ぶ年」(与謝野馨経済財政担当相)となりそうな雲行きだ。
まだ明るい話題があった1年前と様変わりした日本経済で、喫緊かつ最大の問題が雇用にあることに恐らく異論は出ないだろう。年明け早々、本格化する春闘交渉では雇用を最大のトピックに厳しい展開となるのは避けられない。
既に経営側と組合側は水面下で鍔ぜりあいを演じている。8年ぶりのベアを要求する連合に対し、経営側は「ベアは困難と判断する企業も多い」と賃上げをけん制。焦点の雇用維持についても経営側は「安定に努力する」との「努力目標」を掲げるにとどめている。今春闘では正社員だけでなく、非正規労働者問題もこれまでにも増して問われる。「派遣切り」が社会問題化しているだけに、労使双方が一層知恵を絞って妥協点を探ることが求められる。
懸念されるのは雇用調整が進めば、個人消費も落ち込み、成長率がさらに下押しされるという負のスパイラルに陥りかねないことだ。こうした事態が進めば、ただでさえ効果が疑問視される政府の経済対策が実質的に乏しいものになる可能性が高まる。
世界的にデフレ懸念が強まっていることも懸念材料だ。日本では資源価格の上昇に伴い、消費者物価指数(CPI)が一時上昇を続けた。しかし、08年後半にかけて資源価格の下落に加え、急激な景気後退の影響から物価上昇の鈍化傾向が鮮明になった。エコノミストの間では09年央にもマイナスに陥るとの予測も出ている。
世界の景気回復のカギを握る米国でも昨年11月のCPIが季節調整後で前月比1.7%低下し、過去最大の下げ幅を記録、デフレ圧力がこれまでになく強まっている。
その点、オバマ米政権が打ち出す景気対策に期待が高まる。オバマ氏は既に景気対策の概要を発表、その柱は大規模インフラ投資や情報スーパーハイウエーの再構築などで、これらの措置により300万人の雇用効果を生み出すことを目指している。近々、さらに肉付けした景気対策も取りまとめられる予定。危機発生源となっただけに米国が責任を持って積極的な対策を打ち出すことに世界から注文めいた期待も強まっている。
日本も、福田内閣から麻生内閣まで計3回にわたり、総事業規模75兆円の景気対策を打ち出した。政府はその上で、09年度政府経済見通しでゼロ成長を見込んだ。
ただ、それでも民間シンクタンク15社からは同年度成長率見通しで厳しい数値が発表されている。平均は実質でマイナス0.8%、名目でマイナス0.7%。IMFは既に09年に日米欧が一斉にマイナス成長に陥るとの世界経済見通しを発表している。いかに世界全体が異常に冷え込んだ状態にあるかが伺える。
一方で、景気循環論では平均的な後退期は16−20カ月とされる。今回の景気後退入りの時期では正式判定はまだ出ていないが、有力視される07年11月が転換点となれば既に12カ月以上経っている計算。過去の景気循環論に準ずると今後1年以内に回復に転じることになる。ただ、現実には「百年に一度」と表現される経済危機。過去の例を論じてもさほど意味がないとして、一部には36カ月は続くとの見方をするエコノミストもいる。麻生太郎首相は「世界の中で、最も早くこの不況から脱するのは日本」(年頭所感)と意気込みを見せるが、残念ながらそれは言うほど簡単なことではない。 |