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時局講演会 3月23日(月)開催
「『乱世』に突入した日本政治〜その先に何が見えるのか」
政治アナリスト 伊藤 惇夫 氏

経歴

政治アナリスト 伊藤 惇夫 氏
伊藤 惇夫(いとう・あつお)
1972(昭和47)年学習院大学法学部卒業。約20年間の自民党本部勤務を経て、新進党へ。その後、太陽党、民政党、民主党の事務局長に就任。 2001年に退任後は、約30年に及ぶ「永田町生活」から得た経験と人脈を生かし、政界のウラ事情を知り尽くした政治アナリストとして新聞やテレビなどでコメントしているほか、明治学院大学や日本大学で講座を持っている。
主な著書に「政党崩壊 永田町の失われた十年」「政治の数学 日本一腹が立つデータブック」「永田町の回転ずしはなぜ二度回らないのか」「民主党 野望と野合のメカニズム」など多数。

 サンフロント21懇話会と静岡政経研究会が主催する「時局講演会」が3月23日、沼津市魚町の静岡新聞社・静岡放送東部総局ビル「サンフロント」で開かれ、政治アナリストの伊藤惇夫氏が「『乱世』に突入した日本政治〜その先に何が見えるのか」をテーマに講演した。伊藤氏は自民党本部勤務を経て新進党、太陽党、民政党、民主党の事務局長を歴任し2001年に退任後、政治アナリストとして活躍している。民主党小沢代表の公設秘書逮捕で揺れる政界の状況を分かりやすく解説しながら、「自民党と民主党が政権の座をめぐってこれから本当の戦いが始まる」という現在の状況を「乱世に突入した日本政治」とし、歴史的な変革期を迎えていることを示唆した。講演当日は小沢代表秘書の起訴前日。日替わり政局という中、講演当時と状況は変わって来ているが、そのまま掲載する。

政治の状況はまさに日替わり政局

 いま、本当に政治も経済も大混迷の時代に入っております。最近の政治の状況はまさに日替わり政局でして、講演のたびにメモをつくり直さなければならないという手間のかかる政局になっています。
 その中で、小沢一郎さんの秘書大久保さんが突然東京地検特捜部に逮捕されました。政界はものすごい衝撃を受けました。
 私の友人には東京地検特捜部に呼ばれた者が結構多いです。東京地検特捜部はどういう連中なのか。彼らは3つの特徴があると言います。1つ目がエリート意識の塊である。2つ目、非常に正義感が強い。3つ目は、驚くほど世間知らずだというのです。ですから彼らと戦うのは楽じゃないようです。小沢さんはそれに対して今、全面対決を挑もうとしているわけです。
 明日、大久保秘書の拘留期限が切れます。恐らく起訴ということになると思います。起訴内容が虚偽記載、政治資金収支報告書にウソを書いたということであれば、従来だったら修正申告で大体終わっていた話です。これだけだったら小沢さんは辞めないと思います。
 小沢さんは3月4日、秘書が逮捕された後の最初の記者会見で検察と全面対決の姿勢を打ち出しました。それを皮切りに新聞に連日検察のリークとみられる情報が流れました。検察はとにかく小沢さんを追い詰めるんだという意志で徹底的に情報をリークした。リーク情報の中身はあっ旋利得の方にどんどん行きました。リークの流れ方を見ていますと、僕は特捜の焦りみたいなものを感じました。
 漆間さんという官房副長官がこの事件が発覚した直後に、何と迂闊にも「自民党には波及しない」と発言してしまいました。政府高官というのは誰なんだということが改めて皆さんにもお分かりになったと思います。あるいは政府筋という呼び方もあります。新聞の紙面とかテレビのニュース番組などで見たり聞いたりしてこの高官は誰だろうと推理するのは楽しいです。政府高官の漆間さんが自民党には波及しないと漏らしてしまい、特捜部は検事を動員して二階さんの担当班をつくったりして、大慌てしたんですが、あの発言がさらに拍車をかける形で民主党は盛んに今度の件は国策捜査だという言い方をしています。

霞が関に危機感

 国策捜査という言い方の中に政治が関与しているという意味が込められているのだとすれば、それはいささか間違いじゃないかなと思っています。もしかしたら野党に転落するかもしれない自民党の言うことを聞いて捜査に影響を与えることはまず考えられない。
むしろ私は霞が関全体に一種の暗黙の合意のようなものがあるのではないかと思います。民主党中心の政権になるとまずいという空気が、霞が関という小さな世界の中に蔓延していることは間違いないのです。
 例えば民主党は政権を取ったら役所に100人ぐらい国会議員を送り込み、それを軸にして官僚主導型政治を叩き潰すんだと言っています。もう一つはアメリカで大統領が交代すると政府の役人、日本でいう局長クラス以上が総入れ替えです。それに近いことをやろうという方針を民主党は固めつつある。
 実は日本の官僚機構というのは第二次大戦という戦争を経てもほとんど崩れていないのです。財閥は解体されたけれど官僚機構は解体されていません。明治以来、営々と築きあげてきた霞が関、官僚社会の一種の秩序が、もしかしたら民主党政権になったら崩壊させられるかもしれないという危機感を霞が関が持っていることは間違いないと思います。そういう空気があって今回の特捜の動きにつながったということが全くないとは言えないと思います。
 もう一つ言うと法務省自体が民主党政権に対して警戒感を持っています。一つは裁判員制度に対して民主党が反対していることがあります。もう一つ、民主党は今度のマニフェストの中に捜査当局の取り調べの可視化をうたっています。つまり警察の取り調べや検察の取り調べをビデオ等で録画して密室での取り調べの中に暴力的なことがなかったかどうかをチェックするために条件次第ですべてオープンにするということをマニフェストにうたっています。
 これに対して法務省はものすごく反発しています。とくに特捜が一番反発しています。特捜部が担当する案件は自供させないとなかなか立件できない。もしそれが可視化されたらテーブル一つたたけなくなると。ここに対して非常に警戒感を持っているというのは事実としてあります。

日本の政治の方向性に大きな影響を与えた

 今度の件でわれわれ政治の世界にいた人間からするとかなり特捜の動きに疑問を持たざるを得ない部分があります。大きく分けると3つあります。1つ、なぜこの時期かです。選挙が間違いなく半年以内にあるという状況の中で野党第一党のリーダーを抑えにかかる。過去、こういうことはありません。
 なぜ野党のリーダーである小沢さんの周辺をというのが、もう一つです。もうちょっと小者から積み上げていくのが検察の手法ですから。今回に限り頂上から行った。時効が迫っているとか、金額的に一番多いとか、検察にも理由はいろいろあります。今回特捜が立件しようとしていた範囲だけで言えば2100万円です。これは過去のこういう政治資金に絡むスキャンダルとしては少ないです。今までは大体1億円以上でした。これが2つ目です。
 3つ目はなぜこの容疑で、というのがあります。いい悪いではなく、過去の例に比べると極めて軽微な犯罪という位置づけが当然できます。過去においては記載をしていたのに捕まったという例はありません。
この3つのなぜがどうしても残るんです。起訴をするなら検察側に今度は説明責任があると思います。
 こういう事態になってしまったこと自体が政局にものすごく影響を与えています。確かに彼らは犯罪だと思ったからやったと思いますが、やればどういう影響を政局に与えるのか。その政局の中で、選挙の時期、選挙の結果にもかなり大きな影響を与えることは間違いない。その結果、政権がどうなるか。移動するか、しないかにも非常に直結するような大きな動きです。
 もっと考えるとこれから10年、20年先の日本の政治の方向性に、今回の特捜の動きが非常に大きな影響を与えたことは間違いないと思います。いくら世間知らずだといってもその程度の想像力は特捜にあると思います。やはりこの点について、今回こういう行動を起こしたのなら、そのことも含めてきちんと説明すべきだろうと思います。
 各マスコミの3月の世論調査の数字をご覧になったと思いますが、各社の結果をみますと共通項は簡単に言うと「小沢さんはもう辞めた方がいいのかな。でも、民主党にはまだちょっと期待しようかな」という数字が明確に出ていると思います。
 4月もやはり各マスコミが毎月の定例の世論調査をやると思います。恐らく小沢さんが辞めた方がいいよという声は減らないだろうと思っていますが、最大のポイントは3月の調査では「でも民主党にはまだ期待するよ」というものです。民主党の支持率は多少下がっていますが、一方で自民党の支持率はほとんど上がっていない。麻生内閣の支持率も上がらない。この数字がどうなっているのか。
 4月の調査で民主党に対する期待値が大幅に下がるということがあれば、これは民主党の中で代表交代という動きが起きてくる可能性は十分あると思います。民主党は5カ月以内に総選挙を視野に入れている中で、何としても政権交代をという目標を達成するためにはやはり支持率を上げなければいけない。そうなってくると、小沢さんをそのままにしておいた方が選挙に有利なのか、それとも小沢さんから誰かに代えた方が有利なのか、どこかで判断をしなければいけない時期がやってくるだろうと思います。

麻生さんは時代の空気とずれている

 一方、民主党がこれだけ追い詰められているにもかかわらず、相変わらず麻生政権の支持率は上がらない。自民党の支持も少ししか増えていない。
 支持率が上がらない理由はいくつかありますが、集約していうと2つぐらいになると思います。一つは麻生さんの幼児性。麻生さんを見ていて一番特徴的なことは、「俺」とか「俺たち」とよくおっしゃいます。公の場でそれを平気でおっしゃるのは、受け狙いなのか、それとも公と私の区別をつけられないのか、どちらかだと思いますが、僕はこの辺も子供っぽさを感じています。また、麻生さんの別名は「半径1.5メートルの男」というのがあります。1.5メートル以内に入ってしまうとすごくいい人らしいです。座持ちもいいし、楽しいんだと。でも1.5メートルから出てしまうと鼻もちならないぼんぼんみたいな感じの人になってしまうところが問題です。総理大臣は日本列島3千数百キロを相手ですから。
 もう1点は、時代の空気とずれているんだと思います。麻生さんはバブルの時代に総理大臣になっていたら結構受けていたと思います。当時であれば毎晩ホテルのバーに行っても誰も文句をいわなかったと思いますが、今の時代はいうまでもなく100年に一度といわれる危機的な状況で、皆さんが今日の生活、仕事、自分たちの子供の将来と国の将来について非常に大きな不安を抱いていらっしゃる。真剣にどう生きていったらいいのか考え始めている。こういう時期にべらんめい調とマンガ好きで、受け狙いをやる総理大臣というのはちょっと合わないんじゃないのかなと思っています。

今の永田町は「応仁の乱」が始まっている感じがする

 これからどう先延ばしをしようが9月に衆議院は任期満了になります。その主役はいうまでもなく自民党と民主党で、政権の座をめぐってこれから本当の戦いが始まるわけです。
 演題に「乱世」という言葉を使わせてもらいました。私は乱世というと「応仁の乱」を連想します。歴史上「応仁の乱」はかなり特徴的な戦乱だったといわれます。地域的な規模が多い戦乱の中で九州を除くほぼ日本全土で同時多発的に戦乱が起きていた全国規模の戦乱だったのが第一の特徴だといわれます。もう一つ、権力の総入れ替えが行われたのが「応仁の乱」だそうです。ちなみに「応仁の乱」以前から名家といわれた家柄で、その後、戦国時代も見事に潜り抜けて現在まで連綿と家柄を守っているところはあまり多くないそうです。天皇家以外で著名な家柄というと細川家が筆頭に上がるそうです。700年続いているといわれています。
 その当主、元首相の細川護煕さんとは仲良くさせていただいています。今、お住まいは湯河原で、現職は主に陶芸家です。この前にちょっとお邪魔したのですが、週に3日か4日作陶に励んでいるということでした。細川さんは政治の世界に復帰することは100パーセントないと言っていますが、見えないところでかなり政治の世界とつながっているし、影響力もお持ちになっているようです。
 皆さん意外にご存じないかもしれませんが、今の民主党をつくった立役者です。今の民主党は菅さんや鳩山さんたちが旧社会党の人たちと一緒に作った旧民主党、新進党から分かれた反小沢系旧自民党グループの民政党、旧民社党系の新党友愛の3つが合流して98年4月にできました。その調整役として走り回ってまとめ上げたのが細川さんです。それだけに未だに民主党の中では中堅クラスぐらいで細川さんを非常に慕ったり、頼りにしている人がたくさんいます。そういう人がよく訪ねてくるそうです。
 最後の「応仁の乱」の特徴は、一定の地域に関して言うと乱が始まる前は朝と夜の2食文化だったのが、乱が終わってみると3食文化に変わっていたという説があります。もしこれが事実だとすれば、「応仁の乱」は日本人の生活、風習、文化まで大きく変えてしまった非常に革命的な戦乱だったのかという感じがしています。そして最近の永田町を見ていて、どうも永田町は「応仁の乱」が始まっているのかなという感じがして仕方がないです。

弱体化した自民党

 これからいよいよ自民党と民主党の最終決戦のような状況が始まります。
 まず自民党の現状はどうか。私は20年間自民党の事務局にいました。私がいた15、6年前の自民党と比較しますと、完全に弱体化、劣化しています。かつての自民党と今の自民党は体質が変わってしまった。大きな変化が起きているような気がします。
 例えば、この3代にわたって失敗した総理選びを見ていると自民党が劣化していることがよく分かると思います。安倍、福田、麻生の3人の選び方はほぼ共通しています。総裁選びが始まった段階でもっとも人気の高い人があっという間に本命になってしまう。本命がはっきりしてくるといっぱい派閥があるはずなのに派閥の領袖もその下にいる人たちもドーと本命に乗ってしまい、あっという間に決まってしまう。
 こういうことはかつての自民党にはありませんでした。かつての自民党はどんな形でも総裁選があると熾烈な戦いを展開しました。反主流派は冷や飯覚悟でも全力で戦っています。そういう中で自民党は活力を再活性化してきたと思います。
 弱体化の最大の要因は、派閥が弱体化してしまったことだろうと思います。かつての自民党は派閥連合政党でした。かつての派閥の栄光をまだ引きずっているのは実は民主党の小沢さんぐらいなのです。
 国民から見ると弊害もたくさんあったと思いますが、自民党の中から見ると派閥華やかなりし時代は自民党にとって一番の栄光の時代だったと思います。これはやはり三角大福中の時代です。三木武夫、田中角栄、大平正芳、福田赳夫、中曽根康弘。こういった人たちが競い合った時代の派閥が体育会系だとすれば、今はサークルです。それも運動系ではなくて文化系のサークルのようなものです。ほとんど戦闘能力が派閥にはありません。

派閥の効用は3つ

 かつての派閥の効用は3つあります。まず、派閥というのは金と選挙とポスト、これを派閥所属員に与える代わりに、その派閥員は派閥リーダーに絶対服従なんです。そういうギブ・アンド・テイクの関係がありました。総裁選の時もそうです。リーダーが推す人、あるいは負けを覚悟でやるんだと言えば、皆全力でそれを支えました。
 そういう状況の中で熾烈な総裁選があり実弾が乱れ飛ぶような悪い面もあるのですが、そういう激しい戦いが実は自民党のエネルギーの再活性化に非常に大きな役割を果たしていたと思います。
 2つ目は派閥が実は教育機関の各割を果たしていたのです。国会議員は1年生といえども一国一城の主ですから、党が強制的に何かを押しつけるということはなかなかできません。派閥はできました。派閥は上下関係がものすごく厳しいですから。いやなら出て行けの世界です。かつての派閥はそうだったのです。ですから先輩が後輩に対して教育も出来た。
 一つ非常に印象に残っているのは経政会の教えというのがあります。先輩議員が当選してきた1年生議員に教えることがいくつかあるんですが、その中の一つに「君たちは当選2回、3回するまで徹底的に選挙区の地盤強化に走り回れ」と。「党の勉強会、あるいは部会の調査会は時間が許す限り全部出なさい。ただし3回当選するまでは、そういう場で一切発言してはいけない。ひたすら先輩議員の話や議論を聞いて勉強しなさい」という教えがあったそうです。
 これは政治家が思い切って活動するためには選挙区の地盤が確立し、選挙に心配ないようにしなければいけない。だから徹底的に体力強化に励みなさいということです。そして、一人前の政治家になった時に活躍するため、それなりの勉強が必要だと。蓄積が必要だと。ただし中途半端な知識をひけらかしてしゃべるんじゃない。とにかく聞くのが大事だというのです。
 ちなみに田中角栄さんはものすごく面白い言葉をたくさん残していますが、その中の一つに「賢者は聞き、愚者は語る」というのがあります。政治の世界だけじゃなくてビジネスの世界にも通用するような言葉もいろいろあります。例えば、「まず結論を言え。理由は3つ以上述べるな」と。これは会社でも使えます。
 その他、私が大好きなのが保守合同の立役者、三木武吉さんが残した言葉で「誠心誠意嘘をつく」という言葉があります。民社党の名物党首の春日一幸さんが残した言葉「理屈は後から貨車でくる」というのもあります。理屈なんか後から付けようと思えば10でも20でも付けられる。大事なのは今現在、そこで決断してアクションを起こすか起こさないかだと。心の中でかみしめると結構面白い言葉かなと思います。
 派閥の効能の3つ目、人材育成機関の役割を果たしていたと思います。なぜ派閥が人材育成の役割を果たしていたかというと、かつての派閥は、まず派閥のボスにならなければ総裁候補になれなかった。派閥に所属した段階から野心を持っている人は、そこからのし上がるためにものすごい戦いを日々繰り広げて勝ち残らなければならなかった。とにかく派閥の長にならなければ総裁選にも参加できなかった。やっとの思いで派閥のリーダーになった。それまでに鍛えられているわけです。そこから改めて派閥のボス同士の総裁レースが始まる。これもまた熾烈な戦いの連続です。その中で勝ち残った人間が総裁になり、総理になるわけですから、その過程で鍛えあげられているわけです。
 中曽根さんが面白いことをおっしゃっていました。中曽根さんが初当選したのは昭和25年だそうです。総理大臣になるまでに30数年かかった。しかし中曽根さんは初当選した直後に自分は総理大臣になるんだと誓って、以来、毎日、総理大臣になったらこれをやる、総理になるためにはこうしなければいけない、あるいは中曽根政権ができた時の政権運営はこうするのだということを考えて、思いついたことを全部メモしていった。30数年たって実際に総理大臣になった時にメモをしていたノートを全部出してみたら背丈ほどの高さになったというんです。
 中曽根さんに対する評価は様々だと思いますが、それだけ蓄積と準備と長い年月をかけた戦いを勝ち抜いた経験が、総理大臣の座に就いたときにそれなりに意味を持ってくるんだと思います。派閥は人材育成の機能も果たしていたと思います。
 この3つの機能が今の派閥を見ているとほとんどありません。ですから自民党という政党が弱体化するのも当たり前なのかなという感じが非常に強い今日この頃という感じです。

いいところまで行くとこける民主党

 一方の民主党はどうか。確かに民主党は体力をつけつつありますが、見ていると何か成長期の少年、少女のような感じがして仕方がないんです。つまり大きくなった体と心のバランスが取れない。そこで何か変なミスをしでかしたりするということがよくあるんですが、どうも民主党を見ていると、今はそういう状況なのかなと見ておりました。
 元民主党の衆議院議員で埼玉県の知事をやっている上田清さんという方がいます。初当選するまでに4回ぐらい落選しているのですが、小泉さんですら「誰とやっても俺は負けないけれど上田とは選挙をやりたくない」というほど選挙に強い人です。本人から聞いても抱腹絶倒の選挙運動です。町を歩いていて5人以上人が集まっていたら呼ばれなくても必ずそこに飛び込んでつまみ出されるまで名刺を配るとか、あるいは映画館に入って必ず自分で自分を呼びだすとか、あらゆる手段を使って知名度を上げていく。すごい能力です。
 その彼が今回の事件を受けて、「民主党、ホップステップ肉離れだね」と言っていました。いいところまで行くと、こけるというのが民主党の癖みたいなところがあります。
古い例で言うと年金問題の時、中川昭一さんら現職閣僚3人が国民年金を未納だったことが発覚して、当時民主党の代表だった菅さんが「未納3兄弟」と言って攻めまくっていたら菅さん自身が年金を納めていなかったということが明らかになってしまったことがあります。これは菅さんの名誉のために言っておきますが、ミスをしたのは実は菅さんではなくて行政側だったんですが、それで一挙に形勢が逆転してしまったということがありました。その後はライブドアだとか耐震偽装だとか4点セットと言われた問題が噴出して民主党側は攻め手に欠かないという時に飛び出したのが例の永田メール事件です。


小沢さんのパターン

 民主党は勢い込んでいいところまで押していくという状況になった時に、何かこけてしまう。実はこれは小沢さんという方がそうなんです。自民党の幹事長になられた時ですから1989年からずっと小沢さんを見ていて思うのは、小沢さんは93年に自民党を飛び出して細川政権をつくった。その後、様々な仕掛けをするんですが全部失敗してきています。
 あの人の仕掛けの目標は常に自民党を割ることなんです。これをずっと手を変え、品を変えやって来ては失敗してきています。小沢さんというのは相撲に例えますと、相手を四つに組んで土俵際まで追い詰め、相手の足は徳俵にかかっている。あと、腰をぐっと落として寄り切ってしまえばすむ時に限って、なぜかあの人は蹴たぐり、小股掬いを出すんです。それで自分でこけたり、捻挫したりしている。そういうパターンがすごく多いんです。
 細川政権だって小沢さんがわがまま言わないで、うるさい社会党ですが、我慢してあと1年抱え込んでいれば自民党がもうバラバラになっていたわけです。それが分かっていながら性急にことを進めようとして、社会党、あるいはさきがけを切り離そうとする。切り離して自民党から渡辺美智雄さんたちを引っ張り出そうと画策して失敗してしまいます。新進党時代も表で橋本政権と大げんかして見せていながら、実は裏で橋本政権の官房長官だった梶山静六さんと手を組んで保保連立の話をずっと進めていたんです。これは自民党に騙されたんですが。自民党はその裏で新進党に行ってしまった元自民党議員を一本釣りで自分のところに戻して気が付いたら新進党が崩壊寸前になっていたということです。
 小沢さんがやってきたことはいいところまで行くのに必ず失敗するというパターンが非常に多いんです。今回の場合は、別に小沢さんが自ら動いたわけでなく、特捜部が動いてしまったというパターンですが、それでも何かまたかという感じが僕はしております。
 小沢さんは総理大臣をめざす政治家ではないと思っています。総理大臣になりたいというところがあまりない。あの人はむしろ自分の思うような政治構造、政界の構造変革、もっと言えば政界再編をなし遂げられればいいと。自分が総理大臣になりたいとかではないという思いが非常に強い人だと僕は思っています。
 小沢さんは辞めるのか辞めないのか。小沢さんは民主党中心の政権がつくられるかどうかを唯一の物差しにしてこれから行動を決めるだろうと。それは選挙までの間にどこかで必ずまた判断しなければいけない時期が来る。その時、基準になるのは、自分がいた方が選挙に勝つのか、それとも辞めた方が勝つのかだと。ただし、小沢さんは小沢流の政界再編を目標としている以上は影響力を残して辞めたいという思いは当然あると思いますから、その辺が出所進退を複雑にしている部分かなという感じがしております。


負け比べの自民党と民主党

 勝つために何が必要なのか。その中でかなり有力な一つに相手が嫌がることをやるというのがあります。それが勝利のための方程式の一つです。
 その意味では今の政局を見ていると、非常に不可思議なのは自民党も民主党も相手が嫌がることをやらないで、相手が喜ぶことをやっている。民主党は、僕は選挙に勝つためだったら小沢さんが早い段階で引いて、検察とは個人の戦いに切り替え、新しい代表、それも民主党のイメージを回復できるような代表に切り替えた方が確率的には選挙に勝てるんじゃないかと思っています。事実、自民党の中では小沢さんが続投して欲しいという声が非常に強いんです。
 一方、民主党は何とか麻生さんで選挙をやってくれと頼んでいるわけです。あの不人気の麻生だったら勝てるんじゃないかと。両チームとも相手が好むような戦術を取る。
 今の自民党は何か麻生降ろしの鎮静化が進んでいまして、このまま麻生さんで行くかもしれないと言いだしている連中がいます。民主党も同じことです。相手が好む体制で、どうもこのまま選挙に行くのかという感じが強いんです。状況としては今、負け比べです。
 これから選挙に向けて勝負を決めるのは、どちらが早めに勝つための戦術に切り替えるか。今その状況に入りつつあるんだろうと思っています。
 とりあえず国会は2009年度予算が成立するまでは、極めて順調に進むでしょう。その後、追加の大型補正予算となりますが、2009年度予算が成立したその直後に大型補正を組んで国会で成立させるというのであれば、何で今の本予算を組み替えないのか。その方がずっと早いです。
 第二次補正予算もそうでした。あれを去年暮れの臨時国会でやっていればもっと早く定額給付金も出ていたはずなのに、結局与党側が今年の通常国会に先延ばししたから後手に回っている。
 そういうことを今の国会でもっと議論すべきなのに何の議論もなく、国会の中はなぎ状態でただ法案がスイスイと通って行く状況なんです。喜んでいるのは霞が関の連中だけです。
 その中で選挙はどうなるのか。私はまだ5月あたりに一つのポイントで残っていると思います。それは明確に大型補正予算の方向性が見えるのか、これからの国会の進み方次第ですが、予算が上がったとしたらサミットまで案件が何にもないんです。
 ここで一息ついた途端に麻生さんを降ろそうという声が自民党の中に高まってきたりすれば麻生さんは逆に解散総選挙に打って出る可能性があると思います。
 ただ自民党の中で出ているのは、サミットをどうしても麻生さんはやりたいらしいと。ではサミットまでやらせてしまおうと。その後、ごたごたするのも大変だから任期を1カ月ぐらい前倒しして総裁選をやって対抗馬を出して首のすげ替えをやってしまい、新しい総裁、総理になった人で解散総選挙に打って出る。そういうシナリオを自民党の中で書き始めている連中も最近いるようです。


風が吹かなかったら五分と五分の戦い

 いつあるか、その選挙の結果も、分かりません。自分はずっと事務局長という立場で参議院選挙や衆議院選挙の指揮を事務局レベルでとって来ました。そういう自分の実感でいうと個々の選挙区は別ですが、全体として党の獲得できる議席が増えるか減るか、はっきり分かるようになるのはせいぜい投票日の3日前か4日前です。勝負を決めるのは激戦のところですから本当に最後の最後まで分かりません。
 一昨年の参議院選挙は年金台風です。公示後、突然吹き始めました。その前の郵政選挙は言うまでもなく小泉台風です。ああいう大風が吹いたら予測不可能です。ですから前提条件として風が吹かなかったらどうなるかというお話をします。何が勝負を決めるか。それは自民党と民主党の基礎体力が勝負を決めると思います。
 では両党の基礎体力はどれくらいなのか。自民党は郵政選挙の296議席は特例です。その前3回、96年、2000年、2003年が今の選挙制度で総選挙をやっています。その3回、自民党はいずれも230議席台です。平均すると235議席ぐらいです。今、自民党は体力がかなり低下しています。今の自民党の基礎体力からいうと200議席から210議席ぐらいだろうと思います。
 一方の民主党は2003年の獲得議席数が最高です。177議席。こちらは体力強化してきていますから、どうやら200議席ぐらいまではいっているのかと。つまり、結論的に言うと風が吹かなかったら五分と五分の戦いだと僕は思います。自民党というのはやはり伝統校の強みのようなものがあり、いざとなると個人後援会が、逆風が吹いても踏みとどまる戦いをしますので、そんなにボロ負けすることはなかなか考えられないと思います。現状は五分五分ぐらいだと思います。
 基礎体力は五分五分だけれど、これから選挙の時期、その時の自民党、民主党のリーダーの人気、争点、それこそ風がどちらに吹くか、こういう不確定要素が全部乗ったところで結果が出るわけですから、現状で申し上げられるのは体力的には自民党と民主党は五分五分だろうということぐらいしか申し上げられません。


「応仁の乱」はまだ始まったばかり

 その選挙が終わった後にどういう展開が予想されるのか考えておいた方がいいと思います。恐らく3つのパターンに分かれると思います。
 1つ目、民主党中心の政権ができた場合、参議院は与野党逆転していますから逆転というねじれが一挙に解消されるわけです。この政権がどれくらい持つのかという問題もありますが、例えば小沢さんがきちんと影響力を残していれば、細川政権の失敗を学習しているはずですから無理矢理にも何とかこの政権を1年以上持たせる。1年ということは予算編成を2回やるということです。2回、自民党から予算編成権を奪うと、恐らく自民党は四分五裂します。あの細川政権のたった8カ月でも自民党から30人逃げ出しているんですから。1年以上だったら半分近く逃げ出してしまうことになる可能性が極めて高い。
 もう1つ、逆に自公連立政権が何とか踏ん張って過半数を維持した場合はどうなるか。今度は民主党が割れると思います。大連立というのはあり得ないと思います。なぜなら民主党の中で絶対に自民党と大連立を組むことには反対だという人たちが一定数います。筆頭は岡田克也さんとか、野田佳彦さんたちのグループです。彼らは今度の選挙でもし勝てなくても頑張って次の選挙で政権を取ればいいと、もう少し中長期的な戦略を描いています。彼らは野党に転落したからといって皆で与党に流れ込もうよということは絶対あり得ない。
 そうなると民主党の中から与党に寄って行こうとする人たちは割って出ざるを得ないことになります。候補は小沢さんたちのグループや前原さんたちのグループが挙げられます。自公連立政権側はとにかく参議院でのねじれを解消したいわけですから、それだけの数を持ってきてくれるならいつでもおいでという話なるわけです。民主党の中の一部はそれに乗ってしまう可能性はあると思います。
 3つ目のパターンは、勢力均衡、1議席か2議席ぐらいの違いしかなかった場合、無所属をどちらが取り込むかによって数が変わる微妙な場合はどうなるか。これは40日戦争が起きます。なぜ40日戦争というかというと、選挙から新しい総理大臣を指名するまで40日しかありませんから、勝負はこの40日間で、熾烈な陣取り合戦が予想されます。
 自民党は野党側に手を突っ込もうとする。民主党は与党側に手を突っ込もうとする。1人でも多く獲得したところが政権を持つということになるわけですが、この激しい陣取り合戦の中で、もしかしたら政界再編につながるような大きなうねりが触発されて一挙にそこで動き出す可能性も十分ある。
 3つのパターンに共通しているのは、選挙が終わったから政治が安定するかというと、残念ながらそういうことにはならないだろうと思います。終われば終わったで、また新たな政界の変動が起きる可能性が十分ある。経済がこういう状況なのにという皆さんの思いは十分私も共有しているつもりですが、しかし政治の世界だけで見ていく場合は、まだまだこれから波乱が起きる。「応仁の乱」はまだ始まったばかりという感じが私はしているところです。



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