サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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基調講演  平成23年1月24日(木) 会場/富士市 ホテルグランド富士
「B級グルメは地方を救うか」
新潟大学法学部教授・田村秀氏

箱物行政の片棒担ぐぬぐえなかった違和感

新潟大学法学部教授・田村秀氏

 地域活性化というのは今に始まった話ではありません。歴史をひも解くと、戦後いろいろな形での地域開発がありました。全国総合開発計画で各地域に拠点をつくるとか、工業団地をつくるとかが高度経済成長の時代に盛んに行われてきました。1980年代にはリゾート構想、リゾート開発があり、90年代とその前後は、いわゆる地方の時代といわれる中で、ふるさと創生基金1億円とか、地域づくり、ふるさとづくりで箱物行政が行われてきたことは記憶に新しいかと思います。
 私はそのころまさに箱物行政の一端を担っていました。片棒を担ぐという言葉がいいのかどうか分かりませんが。今は組織も名前も変わりましたが、自治省の地方債課の係長でした。収益事業係長というあやしげな名前ですが、収益事業というのは宝くじとか公営ギャンブルとかの担当です。もう一つの仕事として地域総合整備事業債といいますが、箱物に関する財源措置をする地方債、この担当もしていました。まさにバブル絶頂のころでした。たまたま同じ地方債課にいて私の1年後輩で実質的に私の仕事を代わりにやってくれたのが現在、静岡県の副知事をされている大村さんです。
 ハードはもちろんのこと、いろいろな事業がありました。「こういう文化ホールをつくりたい」「こういうテーマパークをつくりたい」と全国各地から金太郎あめのようなものがいっぱい出てきました。当時の流れは「基本的には認めてやれ」で、地域から出てきたものは基本的にゴーサインということでイケイケの時代でもありました。
 私は「いくら立派なものをつくっても中身がなければただの箱じゃないか」と当時から疑問を感じていました。どうしてもう少し地域の歴史とか文化とか、地域らしさが出ないのかなと思っていました。もう大学に転進して10年も経ちますから、霞ヶ関の話は昔話ですが、疑問を感じたような地域の実情は新潟に来てからもさまざまに見てきました。その当時と今と変わっていないところもあるし、変わっているところもあります。


ないものねだりはダメ地域の宝を探せ

 地域振興なり地域の活性化ということをみていくと、やはり「ないものねだりはダメなんだ」という当たり前の結論に達します。奇抜なものをつくってうまくいったところはまずない。結局は地域の素材をうまく生かしたところ、別の言い方をすれば地域の宝探しをうまくしたところ、地域の再発見をしたところはそれなりに活力があり、成功していると思います。
 例えば、徳島県に上勝町という町があり、「いろどり」という第3セクターがあります。葉っぱを売っているだけです。葉っぱを売ってあれだけ町が元気になっている。この上勝町、最近では内閣府を動かして、いわゆる大学生とかのインターンシップ事業とかをやっている。この上勝さんと四万十さんなど4カ所で千人規模だそうです。インターンシップで地域の担い手とか若者に農業を知ってもらう、地域社会を知ってもらうということでそういう仕掛けをされています。しかし上勝町にいったら何か奇抜なものがあるわけではない。何かつくったわけでもない。地域の資源でやっている。そういうことであります。
 私が食の重要性に気付いたのはどこか、何かなと考えることがあります。「あなたはなぜB級グルメとかご当地グルメとかにはまったのですか、それはいつですか」とよく聞かれます。
 私はもともとそばが好きでした。自治省地方債課の後、香川県に行きました。初めての四国で「うどん文化」をまったく知らなかった。香川には讃岐うどんがあります。当時から地元で愛され、地域の資源でしたが、実はブームになったのはこの10年ぐらいです。そこには富士宮やきそばの渡辺(英彦)さんと同じように仕掛け人がいました。
 赴任先の香川県で県のイメージアップをしようということになりました。企画調整課長だった私は2つアイデアを上げました。2つともボツになったから言いますが、1つは私が赴任したときの1年後、2年後ですか、国体がある。東四国国体といって香川、徳島の両県開催ですが、いくらなんでも天皇杯とかは無理だろう、だったら最初から国体で優勝しない宣言をし、おもてなしの心でフェアに全部公平にしてやったらどうだろう。そういうアイデアでした。ところが教育委員会から却下されました。当時、もう香川県は中国から留学生を呼んでいて 卓球の高校生が優勝しても1カ月後に中国に帰っちゃった。そういうことがごく当たり前にやられていた時代でしたから。
 もう1つは「うどんでイメージアップしたらどうか」でした。これも却下されました。言い出したのは田尾さんという方で、今は大学の教授になられていますが、当時はタウン誌の編集長でした。その後自分で仲間と麺通団というグループをつくっています。「UDON」という映画でも編集長が出てきますが、そのモデルだった人です。香川県のイメージアップの研究会では却下されたものの、自ら実践されて讃岐うどんで地域を元気にされました。
 そこで気付いたのは食というものは外から人を呼び寄せるために、昔から活用されてきた大事なものということです。豊かな自然とか、貴重な文化遺産がなくても、人をひきつけるような食べ物があれば、やはり観光客は来る。このことは日本だけじゃない、古今東西やはり共通している。おそらくそういう中で最近食によるまちづくりを標榜する地域、自治体が増えてきたのだろう、と思っています。
 ところで私は、富士に来たからにはつけナポリタンをちゃんと食べようと思いました。3回目ですが、やはり元祖に1回行っておこうと向かいました。残念なことに10時オープンでも、11時からでないと出ないということでしたので、1時間ぐらい町をぶらぶらしてから、つけナポリタンを食べました。


追いつけ追い越せ静岡あぐらをかくな


 日本の食べ物にはいろいろなメニューがあり、食の文化も和魂洋才です。だいたい外国からいいものを持ってきて日本風にアレンジする。海外はこれまで60カ国近く行っていますが、日本の食はレベルが高い。海外に比べて質も高いしメニューも多い。そういう中で、各地域にしっかりと根付いたものがたくさんある。
 静岡は非常に多い。私は静岡であまりしゃべりたくなかった。なぜかというと、「静岡さん素晴らしいですよね、富士宮さん素晴らしいですよね、あれまねしましょうね」というようなことを言っているものですから。皆さん方素晴らしい地域にいらっしゃるわけです。食のまちづくりを目指す地域の方々からすれば、まさに追いつけ追い越せ静岡です。新潟ですらそうですし、九州だって。だからと言ってあぐらをかいていては足元をすくわれかねません。
 日本の各地域で、地域の個性にあふれたB級ご当地グルメが注目を集めるようになっています。これだけ注目を集めるきっかけになったのは、一つには富士宮やきそばの富士宮やきそば学会が立ち上がり、会長さんはじめ皆さんがご尽力されたということ。そして富士宮とか八戸とか、そういうところが頑張られてB-1グランプリが今では全国的に注目を浴びるイベントになりました。
 もちろんこれはまちおこしのイベントであり、食そのもののイベントではありません。9月に厚木で開催されて以降、いろいろな形で報道が続いている。まちおこし、B級グルメということで集客力が高まり、一定の経済効果が出ています。


足を引っ張って何がおもしろい


 地域経済へのいろいろな形での波及効果については試算もされています。富士宮やきそばは439億円、厚木でも何10億、横手でも甲府でもと。地域経済に効果があるということはデータからも分かってきています。他方で「いやそうじゃない」という人もいます。「お昼とか、団体さんとかがバスで確かに来るけれども、食べてすぐいなくなっちゃう」というようなことが言われたり書かれたりしている。もしかしたらそのこと自体は表面的には正しいことかもしれない。でもすごく無責任だなと思います。例えば、お店の側は当然頑張っている。ブログなどに何か書き込んでいる人たちは自動的に利益を受けると思っていて、自分のところに来ないから「たいしたことはない、そんなに盛り上がっていない、一部の人だけだ」と言っているような感じがします。
 要は、まちおこしというのは自分たちが主体的に参加しなければいけない。もしそういうメニューがあるのだったら、ほかにも何か地域の宝がないのか探してみるとか、あるいは協力するとか、そういうことをすべきでしょう。
 繰り返しになりますが、例えばやきそばならやきそばをやっている人以外の人たちが頑張らなきゃいけない。自分に、自動的に利益が来るというように思っているとうまくいかない。いろいろな地域でいろいろな事例を見ますが、うまくいっているところと、妬みとかがあるのかもしれませんが足を引っ張るような話も聞きます。しかし、日本の地域経済がこれだけ厳しいときに足を引っ張って何がおもしろいのか。もちろん中には自分と合わない人もいるでしょうけども、地域を良くしていこうとする気持ちがあるのであれば、むしろ協力するなり、自分ができることをやるべきでしょう。


4番打者ばかり並べても

 情報発信の課題に移りましょう。新潟の例をお話します。新潟というのは例えて言うと4番バッターばかり並べていて、昔の巨人みたいに。一時の巨人というのはどんどん高い金で4番級の選手ばかりをそろえていました。1番打者、2番打者というのが十分にいなくて必ずしも勝てなかった。食の分野もそうです。4番ばかり並べていても観光客の立場になれば、3食ずっと刺し身というのは飽きてしまいます。新潟のおもてなしはこれまでコメと日本酒と日本海の魚。それを出せば皆満足するような感覚があったように思います。
 これは新潟の海外向けパンフレットですが、コメ、酒、魚、若干の郷土料理はありますが、一般の人に親しまれていてこれから可能性があるB級グルメのようなものはほとんど発信していません。実は新潟にはいろいろな面白いものがあります。例えばかつ丼、新潟のかつ丼はたれかつ丼で醤油(しょうゆ)だれです。ほかにも新潟というとコメばかり食べているように思われがちですが、全国的にみるとラーメンも有名です。そういうものは全然ここには載っていない。
 日本語のパンフレットには郷土料理とかが載ってはいるのですが、どうもセンスがない。全国有数のラーメン大国と書くパンフレットにしては情報発信が下手だなと感じます。新潟市だけではありません。新潟県の中国向けパンフレットですが、ぱっと見て新潟って分かりますか。日本海側だったらどこでも通用しそうです。個性のない、差別化を図っていないパンフレットの例ですが、すごく残念に思います。
 ちなみに静岡はというと、さすがです。静岡県の作っているパンフレットですが、富士宮やきそばが出ています。地ビールとかお寿司とかサクラエビ、静岡おでんとかちゃんと載せている。私から言わせると、こういうところで静岡はかなり戦略的にやられている。
 東京都庁に全国の観光をPRするところがあります。たまたま都庁へ行ったときでしたが、今回静岡に行くということで、どういうパンフレットがあるか全部見ました。残念ながら食に関するパンフレットが置いてない、ほかのところもあまり置いてなかった。それでも栃木県のところにはちゃんと宇都宮餃子(ギョーザ)のマップがある。どっさり置いてありました。やっているところはきめ細かくやっているわけです。
 大分というと鶏(とり)ですね。大分の鶏肉料理文化、別府のとり天とか宇佐のから揚げ、中津のから揚げとか、ちゃんと置いてある。徳島なら徳島ラーメンということになります。限られたスペースですから、何を置くかで分かれます。地域によって情報発信に対する温度差がかなりあると思いました。


お店以外の人が頑張る補助金に頼るな

 「お店だけが儲(もう)かっている」という議論があります。きょうは富士宮さん、甲府さんが来られていますが、メニューではなく団体としてです。団体としてその食を道具、ツールとして地域を元気にしている。
 私の見る感じでは、お店中心で頑張っているところはなかなかしんどい。地域活性化を目指すのであれば、そのお店以外の人が頑張らなきゃいけない。当たり前です。
 今、私は新潟でカレーラーメンの応援をしています。残念ながらまだ中心となっているのはカレーラーメンのおやじさんたち。変な話かもしれませんが、お店というのは自分の店で手いっぱいです。例えば土、日曜日にイベントに出てくれと言われても、自分の店の営業もあるわけでなかなかしんどい。一軒の店では無理です。お店にはお店の持ち場があります。
 地域を元気にするのはやはり地域の人たちであって、市役所でも、商工会議所でも、ましてお店でもない。いろいろな方々が一緒になってやっていくべきものです。成功事例として紹介されているところはやはりさまざまな方の協働なんですね。
 一方で行政頼みのところは、だいたい3年で終わります。補助金が付くと3年間は何とかなりますが、4年目になるとだいたいポシャるんです、行政からお金が出る。お金はないよりあった方がいいですけれど、それをどうしても頼ってしまって工夫が少なくなる、やがてやらされ感になる。あるいは行政の担当者が3年で交代してしまう。そういう中でいつの間にか消えていったグルメ、メニュー、団体というのは結構あります。そのように1年、2年、3年で終わるようなものではなく、継続的にやっていくということが地域活性化にとって、ある意味当たり前のことかと思います。
 先ほど徳島県の例を出しましたが、上勝町だってもう20何年やっている。町として、3セクとかを含めて。宇都宮の餃子も有名になって20年近く経ちます。「B級グルメは1日にしてならず」と言ってきましたが、地道な活動の積み上げがやはり基本になる。たまたまどこかからお金が出たからポンと飛びつくのをダメとは言いませんけど、金の切れ目が縁の切れ目にならないようにしなければならない。事例は各地にありますので、反面教師として見ていただきたい。


地元素材100%にこだわらなくても

 どこまで地元の素材にこだわるべきか、これは難しい問題です。もちろん地産地消で100%地元の素材でやってもいいのですが、果たして現実に可能かどうか。日本の今の食料自給率は4割です。この状況で100%というのは無理だと思います。私がよく例に出すのは讃岐うどん。讃岐うどんは100%にこだわっていません。粉は多くの店でオーストラリア産を使っています。もちろん讃岐産の地粉を使っている店もありますが、値段の面でもそうでしょうけれど、もしかしたらオーストラリア産の方が少しおいしいかもしれません。ただワンポイント入れているネギはその辺の畑でとってきたものとか、何か一つ二つこだわりがあればいいのではないかという感じもします。結果的に100%地元の素材にこだわってしまうと、おそらく高い値段、それなりの値段になってしまうでしょう。これはコストとも関係してくるので、あまりルールをがちがちにしてしまうとどうなのかなということでもあります。
 新しくできているものが結構あります。富士宮やきそばとか甲府鳥もつ煮というのは昔からその地域で愛されたもので、老舗型とか発掘型とか言われます。そういうものと、今までなかったけれど、その地域の特産を作って新しくメニューとして地域に根付かせようとしているものがあります。これは一般的に開発型と言われています。開発型の場合、どこまでこだわっていくか、なかなか悩ましい面がある。地域の産業の活性化、いわゆる6次産業とか、農商工連携とかを考えれば地元のものを使った方がいいということになりますが、果たして本当に地域の人に愛され、そしてよその人をひきつける魅力のあるものができるかどうか。簡単な話ではありません。
 群馬県はうどんの産地です。水沢うどんが一番有名ですが、館林のうどん、桐生のうどんといろいろある。残念なことに讃岐うどんに比べるとメジャーじゃない。いろいろな理由があると思いますが、一つは地元の粉・地粉にこだわっている店が多いことです。ゆえに値段が少し高くなっているのと、必ずしもその味が多くの人に受けているとは言い切れない。のど越し感とか、ちょっとぼそぼそ感がある。そのへんのところは痛しかゆしで、正解はないのかもしれません。あまり地域の素材にこだわりすぎたり、ルールを気にしたりして「これはこうじゃなきゃいけない」とやると、少し窮屈になるのではないか。それなりのルールがありつつも、例えて言うと車のハンドルと同じである程度の遊びがなくてはならない。がちがちだと身動きが取れなくなりますから。
 B級グルメとかB級ご当地グルメというのは遊び心で皆さんやっている。これはすごく重要だと思います。目指すところは地域の活性化。商店街はシャッター通りとなり、高齢化は進みと厳しい話ばかりです。だからといって眉間(みけん)にしわ寄せて難しい顔をして、地域を何とかしなきゃしなきゃというところに、誰が行こうとするかです。むしろ地域の人たちが楽しんでいるところ、楽しくやっているところ、あるいは何か面白いネーミングがあるとか、面白いものがある、人間というのはそういうところに引きつけられ、お邪魔しようとするのではないでしょうか。だからあまりまじめにやりすぎるとかえってうまくいかないのかなという感じがします。


失礼なただ乗り地域団体商標登録に活路も

 これだけいろいろなところで新しいものが出てきて、掘り起こしもされていくと、競争相手が増える。いかんともしがたいことであり、競争相手が増えるのは悪いことではないと思います。
 お世辞ではありませんが、この本(「B級ご当地グルメ本」=静岡新聞社刊)すごいですね。私は、いろいろな本をいろいろな地域で、その地域のグルメ本を見たり買ったりしますが、これだけコンパクトになっていて中身の濃い本はそんなにありません。新潟もこういうものを作ってほしいなと思いますが、裏を返せばこれだけの本ができるというぐらい静岡にはいろんなメニューがあるということです。ついでに私の本も宣伝しておきます。私のは「B級グルメは地方を救う」、新書です。
 まがい物の増加が目立ちます。特にこの後のパネル討論でご一緒させていただく甲府鳥もつ煮とか富士宮やきそばとかは、いろいろなところでまがい物が増えています。明治神宮へ初詣に行ったときのことです。出店を見て、「はてな、あれ」と思いました。厚木シロコロ・ホルモンはよく聞きますが、厚木のもつ煮、厚木のしろもつ、富士宮やきそばもありました。富士宮やきそば学会のあれ(のぼり旗)を立てている。でも、やきそば学会なのにしろもつも出す、えーと思いました。横手焼きそばと八戸のせんべい汁が一緒に店を出している。そして富士宮やきそば700円、これはちょっと高いだろう。まあお祭りだから独自の世界かなですが、深入りするのはやめておきます。
 祭りだけではありません。困ったなあというのは甲府鳥もつ煮です。「土橋さん(甲府・みなさまの縁をとりもつ隊代表、パネリスト)、これ照りがないですよね、一応キンカンは入っているようだけど」。よく見たら全部レバー。これ上野の有名なところです。全然照りがないし、食べてもまずい。それで、店を出るときに「ちょっと店長呼んでください」と言って、「これあかんですよ、裁判になったら負けますよ」と言っておきました。次の週に行くと、看板がなくなっていました。10月のことですから(B-1グランプリへの)反応が早いといえば早い。多分もうなくなっているでしょう。
 もうそんなのないだろうと思っていたら、「今、話題の逸品・甲府鶏もつ煮」がありました。鶏と鳥、漢字が違います。「数量限定、B級ご当地グルメの祭典・B-1グランプリ厚木で1位を獲得した甲府鶏もつ煮、いま話題の逸品です」とある。このお店、有名な肉・しゃぶしゃぶとかのチェーン店の系列です。その日の夜にメールを出すと、さすが大手ですね、「申し訳ありません。暴走してしまいました。今後こういうことがないように徹底した管理をしますので、ご容赦ください」というような話がありました。
 富士宮も甲府もそうですが、横手焼きそばも団体で頑張っています。そういうところにフリーライダー、ただ乗りでどんどん出てきているというのは悩ましい問題です。厚木シロコロ・ホルモンに関しても言える話です。
 この辺のところは、商標登録をするということになりますが、地域団体商標登録というのは特許庁、頭が固いものですから、うまくいっていなかった。あの喜多方ラーメンが取れなかったし、裁判も負けちゃった。最近の情報では未確認ですが、奥美濃カレーが地域団体商標登録をとったという。特許庁も少し変わってきたのかもしれませんが、やはりこれだけいいものに対して、ただ乗りというのはいささかどうも。こんなことばかりやっていると中国のガンダムとかを笑えないですね。
 まねが悪いとは言いませんが、やはり頑張っている人たちには失礼に当たる。せめて「甲府鳥もつ煮に負けない、おれたちの鳥もつ煮」ならまだいいでしょう。完全にその名前を、そっくりそのまま使っているのはどうか、と思います。有名になってくると、こういうのが出てくるというのはどの分野でも同じかもしれません。
 一方であまり露出するのもどうか。ちょっと気になっているのはB-1グランプリでゴールドグランプリをとった団体、横手焼きそばです。横手焼きそばは全国的に知名度が上がっています。レトルトの商品が開発されたり、ランチパックにもなったりしている。横手焼きそばの認証を受けているのは埼玉とか大阪、いろいろなところに店がある。そうするとあまりにもどこでも食べられるようになってしまうのではと危惧(きぐ)しています。 
 食による町おこしは、その地域に来てもらって食べてもらうと共に地域の良さを味わってもらうためにやっているわけですから、「わざわざ行かなくてもいいかな」になってしまうともったいないですし、本来の目的からそれてしまうのかなという感じもしています。


究極はまちが元気になること

 また新潟の話をします。新潟に三条市というところがあります。ちょっとそれますが、私の出身地は北海道の苫小牧。富士市に来て違和感が全然ない。親が紙会社のサラリーマンでしたし、においにも慣れているということもある。北海道では室蘭と苫小牧はカレーラーメンの町ということでライバルです。特に室蘭はカレーラーメンのまちとしてかなり情報発信されていました。元祖はどっち、というところですが、両市にある店の名前は同じでも系列が全然違う。新潟の三条市のカレーラーメンは70年近い歴史があり、鳥もつ煮に負けないくらいの歴史がある。しかも店の数も70店舗以上ある。室蘭とか苫小牧は1軒の店ののれん分けみたいなもので味が大体一緒です。しかし三条にはいろいろなパターンがあります。隣は燕市。どちらも洋食器や研磨、金物や工具など共通していますが、ことラーメンは全然違う。燕はカレーラーメンではなく背脂ラーメン。共にうんちくとかいわれを持っています。出前のため伸びないように背脂でコーティングするとか、カレーラーメンはスタミナをつけるとか、そういうものです。三条と燕はライバル意識が強くて、新幹線の駅は燕三条駅ですが、高速道路のインターチェンジは三条燕と互いに引かない。青年会議所は合併しましたが、市同士は合併しないという感じが強い。そんな両市ですが最近、ラーメンと共に工場の製造工程や鍛冶屋さんとかを観光資源として生かそうじゃないかという話がようやく出てきました。大人の社会科見学と食を合わせていく。こうした工場を観光に生かす試みはいろいろなところでやっています。例えば川崎市はコンビナートの夜景を観光に生かす。はとバスのツアーがあるぐらいです。工場というものが違った形でクローズアップされ、しかも食もあるということになります。
 三条ではカレーラーメンのイベントをやっています。ここには31店舗あります。私も頑張って31店すべて食べました。「カレーラーメンもいいけど、やはりはしごができた方がいいね」と提案したのは私です。この発想は香川県での経験からです。先ほど讃岐うどんと群馬のうどんの違いに触れましたが、もう一つ違いがあります。頼み方の違いです。讃岐うどんは1玉2玉と玉の数で注文します、ですから1玉でもいい。そうするとはしごができる。元祖の店とかが繁盛してしまうと妬みとかが出てくるわけですが、はしごをすることによってほかの店にも効果が及ぶ。そのためにはハーフサイズとかがあった方がいいというわけです。
 私は「食だけじゃない、究極のところは地域が元気になることだ」と思っています。地域に人がいて、知ること、見ること、味わうこと、経験すること。燕・三条の場合、文化をはじめ、身近な工場とかお寺とかいろいろあるので、いわゆるまち歩きができる。こちらは三条市役所の方が仕掛け、まち歩きの企画をいろいろやられています。その中にさっきのカレーラーメンをはしごするまち歩きがあります。私も1回参加しました。参加者の半分ぐらいが女性でした。なぜかというと、ハーフサイズ、ミニサイズが3杯食べられる、それで1000円ちょっと。しかも案内人はカレーラーメン店主。店主は自分の店以外を案内する。ライバルがライバルのところへ行く。これはなかなかたいしたものだと思いました。
 同じ新潟の糸魚川は開発型ですが、地元でイカがとれるということでイカスミを使ったブラック焼きそばというものを開発しました。地元では将来、愛Bリーグに参加してまちおこしを図り、B-1グランプリに参戦したいという動きになっています。それはそれで大いに評価しているのですが、ここまでいく間に1度しくじっています。どういうことかと言うと、糸魚川はジオパークに指定されたものですから、糸魚川ジオパーク丼とか言っていろいろな店で出す。それはいいとしても、結局1年ぐらいたったら半分ぐらいの店がやってない。よくあるパターンです。ブラック焼きそばが軌道に乗るよう期待しているところです。


原点は地域の人に愛され、お腹を満たしてこそ

 そろそろまとめに入ります。B級グルメはブームで終わるのか、それとも定番化だろうか。ブームで終わるのはもったいないし、地域の誇り、地域の文化として長く伝えていただきたい。実際に長くあったからこそ今に至っている。富士宮やきそばしかり、甲府鳥もつ煮もそうです。そういう意味で私はこれまでの富士宮の取り組み、甲府の取り組みを高く評価しています。だからこそこれからも永続的に多くの人がかかわって、より良い方向に持っていくためにどうしたらいいのか、そちらの方に知恵を出し合い、汗をかく。そういう動きになってほしい。
 いまさらながらで、富士宮やきそばについてコメントできることはありません。また甲府の鳥もつ煮も、まさに土橋さんの活躍に関して何もないんですが、甲府の方はJ1、サッカーと同様にホーム&アウエーで全国各地のご当地グルメと対決し、多くの話題をつくっていただければいいのかなと思っています。
 そして富士市でありますが、きょうつけナポリタンを食べさせていただき、ほんとうにおいしかった。私もいろいろな開発型を食べていますが、かなりおいしいです。ただ、似たものがかなり作られる可能性があるのかなという気がします。
 一つご紹介したい話があります。実は昨年10月末ぐらいに某新聞社の方でB級グルメのランキングをしました。つけナポリタンも候補に入っていました。どうしても一般的に有名なものに皆が点数をつけますので、上位には入ってこなかった。
 ですが、こちらの方から「こういうものがあります、我々も頑張っています」と、私とは全く接点がないのに、大学にパンフレットとか情報の提供がありました。これにはびっくりしました。ほかの地域の団体にはぜひ参考にしてほしい。積極的に自分たちのしていることをアピールする、そのぐらい知られることが第一歩であります。そして食べてみました。分かってはいましたが、素晴らしいなと感じました。
 B級ご当地グルメというものが、まさに地域の個性として定着し定番化し、4番打者ではなくても1番打者、2番打者として地域の中で活動していただきたい。そのためには「地域の人が愛してこそ」が出発点だと思います。土、日曜日でしか食べられないようなものは長続きしないだろうと思いますし、「地域の人が普段食べている、でもよそとはちょっと違うよ、それなあに」みたいなものが、外から来ると新鮮さがあり、それにひかれるわけですから。
 いろいろなものを合わせればまだまだあると感じています。そういう情報をさらに外に出していただく。それを地域の人が誇りに思い、地域のプライドとして食文化を次につなげていく、それが地域の活力になります。やはりお腹がすいていては何も始まりません。地域の活力は地域の人々が満たされてこそ、そうなるのだと思います。食によるまちおこしをぜひ継続的にやっていただきたいと思っています。


 
< 略 歴 >

◇田村 秀(たむら しげる)氏

1962年東京都生まれ。東京大学工学部都市工学科卒、国際基督教大学博士(学術)。86年旧自治省入省。自治大学校教授などを経て、2007年新潟大学法学部教授。専門は行政学、地方自治、公共政策、食によるまちづくり。主な役職は内閣府道州制ビジョン懇談会区割り基本方針検討専門委員、全国知事会第9次自治制度研究会委員など。第5回B級ご当地グルメの祭典!B-1グランプリin厚木特別審査員を務めた。「自治体格差が国を滅ぼす」「B級グルメと観光振興」など著書、論文多数。





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