サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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パネル討論「キラメッセぬまづ 12年間の成果と今後の可能性」
<パネリスト>
内村 博隆 氏 沼津市都市計画部長
中山 勝  氏 キラメッセぬまづ運営推進協議会会長(企業経営研究所常務理事)
東條 秀彦 氏 MPI Japan理事
<コーディネーター>
青山 茂 氏  シード取締役副社長(サンフロント21懇話会TESS研究員)

青山  東條さんのご講演を通してはっきり分かったことはコンベンションとは経済活動誘発のための産業政策であり、施設というのはきっかけに過ぎない、都市づくりとはまさに都市を挙げて経済活動を誘発するための受け皿を作っていくということです。
 パネルディスカッションではキラメッセの12年間の歩みを検証し、平成26年夏に完全オープンする新生キラメッセの可能性と新たな役割、そのためにすべきことを議論していきます。パネリストをお願いしました東京電力執行役員沼津支店長の栃木さんは震災復興など諸般の事情によりご欠席をやむなくされましたが、事前にお話をうかがっていますので栃木さんのご発言も適宜織り込みながら進めさせていただきます。
  今、手元に平成8年にサンフロント21懇話会が当時の沼津市長、県知事に提出した提言書があります。内容をちょっとみますと「このままでは東部が危ない」とあります。東部には静岡や浜松にあるような大規模イベント施設がない、格差も甚だしいと指摘しています。沼津市ではこの提言が想定外のところから降ってきたと受け止めた方もあったようですが、内村さんはそのころ沼津市の係長であり、キラメッセの建築、運営に携わって来られました。当時の率直な感想、その後のご苦労も含めてキラメッセが高次都市機能を担い、生活圏域を超えた地域の幅広い方々にサービスを提供する施設としてどのような役割を果たし得たか、またそれがうまくいった要因は何か、聞かせてください。


高い稼働率は県東部の「底力」


内村 平成9年の異動で建設の担当係長としてかかわり、技術屋ですから完成後はお役御免のはずが管理・運営までやらせていただきました。おかげさまで73%という高い稼働率があり、今、都市計画部長というポストをいただいております。
  建設当時から中山さんや青山さんにはご協力をいただき、メンバー12人の研究会がありました。外部の方が9名、手弁当、無報酬で来てくれました。キラメッセをどうしたら活性化できるか、運営できるかに始まり、毎週熱い議論を戦わせていただきました。もう一人、忘れてはならないのが初代館長の和田夏樹さんです。われわれにはノウハウがありませんので、和田さんは神戸の国際展示場へ2カ月単身で行かれ、そこで管理運営のイロハを学ばれて初代館長を務められました。和田さんは当時、市役所退職の60歳。その情熱、パワーには頭が下がります。この高い稼働率は皆さんのお力に支えられてのものです。
  キラメッセでの主催者、利用する方々、またイベントのお客さまは半分が沼津、周辺の方々も半分ということで、沼津だけのものではなく県東部、もう少し広域の施設であったかと思います。沼津が担っている東部の拠点として大きな役割を果たしてくれました。
  成功した要因をよく聞かれます。高い稼働率についての質問もよく受けます。静岡、浜松のイベント施設に比べ、安い単価で使えて駅に近く利便性が高い、トラックでそのまま入れて設営・撤退がしやすく使いやすいというところがあります。それだけではありません。東部が持っているパワー、潜在力といったものが高い稼働率を支えてくれました。
  一つ例を挙げますと、陶器市が年に数回ありました。主催者に尋ねると「沼津は伊豆半島を持っている」とおっしゃる。ホテルや旅館の女将さんが来て同じデザイン、同じ柄のお皿や茶碗をそれこそ百枚単位で買ってくれる。そういう意味からも沼津だけではなく東部圏域は非常に底力がある。高い稼働率は東部地域の底力だと思っています。

青山 中山さんは運営推進協議会の会長を12年間、前段の施設活性化研究会の委員長も含めると計13年半。めでたく年度末をもって卒業されます。東部にはなかった大規模イベント展示施設を造ったわけですから、当然ながら経験もノウハウもない。東部初の展示、コンベンション施設のいわば開拓者です。どのように展開されてきましたか。


思い入れのある施設、背伸びせずに


中山 成功要因としては内村部長がおっしゃったように地元にパワーがなければいくらソフトが良くてもダメ、というのが第一印象として真っ先に浮かびます。
  稼働率73%、これはすごい数字です。要因の一つは背伸びをしなかったこと。具体的な表れが展示面積4千平方bです。西部、中部に大きな展示場がありますからもっと大きな施設を標榜しがちですが、10年間の仮設展示場という条件もあって4千平方メートルになりました。身の丈に合った土俵を設けたということでしょうか。
  ソフトの面では運営推進協議会でも日本一親切で使い勝手の良い施設を基本コンセプトに据えました。代々の担当課長さんには、基本コンセプトを踏襲していただくことが継続的に繁栄させていく要因だと強く訴えてきました。このコンセプトは13年前からの週一回の、私どもサンフロント21懇話会TESSの研究員のほかに、建物の設計をされる方々、イベントを主催される方々にも入っていただいて造る側、利用する側などが喧々諤々(けんけんがくがく)、協議をして、つくりました。行政主導に陥ることなく、稼働率が少し落ちてきた時には「どうしたらいいんだ」と知恵を絞るなどメンバー一人一人が「自分たちのキラメッセ」という意識をもって協議を重ねた。そういう意味では思い入れのある施設です。
  収益マインドについても大いに議論をしました。何を議論したかといいますと、駐車場の台数は何台がいいか、自動販売機はいくつ置くか、そんなところまで議論して初年度から一定の数字を上げてきた。こうした積み重ねが来場者の505万人とか、収支1億8千万円のプラスという結果に結びついた気がします。先ほどの話には出ていませんでしたが、リピート率にも注目していただきたい。リピーターが71%ほどあるんです。

青山 こういう施設はできてから始まる。造った後もほったらかしにしない。受け身で管理するのではなく前に前に出ていく。そういう文化がキラメッセにはあった、と振り返って思います。東條さんはキラメッセの歩みをどのようにお聞きになりましたか。

東條 73%という稼働率は全国でもトップレベルです。幕張メッセなどを経験していますが、それと比較してもはるかに高い。背景には市民に親しまれる施設であり、4千平方メートルという適正な規模があったかと思います。ともすれば過度に大きなものを期待しがちですが、市の規模とか周辺経済圏の規模とかを見極めて4千平方メートルにされた。それがこの地域に合った適正な規模でしたね。
  日本一使い勝手のいい施設を目指すというソフトの部分は、鍵ひとつ貸しておしまいがほとんどで後のケアはしないケースが非常に多い中で、高稼働率につながった要因ともいえます。展示会場というのは単純です。鍵ひとつ主催者に貸してあと全部責任を持ってもらうというのが一番簡単なやり方です。そこにコンシェルジュ的な機能があって、主催者の立場になって施設の方がやってきたことが生きた。それがリピーター、リピート率71%につながった。そこに付いたお客さまは貴重なお客さまであり、この施設にとっての宝物だと思います。新生のコンベンションセンターにとっても大きな強みになるでしょう。
  地方都市で展示会をやる内容、やる意義というものはマーケティングしていくと次々と掘り出せるものです。先ほどの陶磁器の展示会が好例ですが、展示会はその土地、土地に合わせて売るもの、展示するものが変わってきます。もう少し目を広げていけばこの土地ならではの展示会が期待できるでしょう。

青山 東京電力さんもオープン以来スイッチフェアを12年間続けられ、2日間でだいたい1万人の動員があったと聞いています。理由として価格と使いやすさを挙げていました。地域にある産業に焦点を当ててコンベンションに取り込み、外へ向けてアピールする力にしていく、地域の産業との連携という部分でキラメッセが残した課題は何でしょうか。


波及効果や地域連携は不十分


中山 リピート率71%は強みではありますが、裏を返すと新規のお客さまを取らなくても、あまり苦労しなくてもお客さまが取れてしまう。新規のお客さまが少ないことが一つの課題として考えられます。営業努力をしなくてもよければノウハウ、営業のノウハウは陳腐化する。訪れる地域の方々からすれば同じイベントでマンネリ化しているから、固定の人しか来ない。そこはやり方を変えていかないと。
  もう一つは経済波及効果。展示場の場合は使えばそれでいいのかもしれませんが、コンベンション産業となりますと、今後を考えていく上で必要になる広告代理店、土産物、生花とか司会の方との連携、さらには通訳、翻訳などのコンベンションサービスをされるような企業がこの地域にあるのかどうか。ちょっと分からないですけど。後は旅館、ホテル、レストラン、給食などとの連携、タクシーやバスとは、旅行代理店もそうですね。周辺にある水族館や博物館とは。こういったコンベンションにかかわる皆さま方とのつながりが少しなかったと思っています。検討会の段階では利用者の方々が集まる協議会を作るべきであり、必要となるものは一体何か、不足しているものは何か、そうしたご意見をキラメッセぬまづに生かしていきましょうという部分があるにはあったのですが。
  経済波及効果は一次、二次といろいろありますが、だいたい1.7倍ぐらいとされています。首都圏に持っていかれてしまう可能性もありますが、利用者協議会のようなもので少しまとまっていけば、地元にお金が落ちるという波及効果があったかと思います。
  3つ目は東部の独自性を持ったイベントが打てたかどうか。人がたくさん集まってくるイベントはありましたが、例えば最近のファルマバレー・プロジェクトに関係するような展示はもっと開ける可能性があったような気がします。この地域にはものづくりの産業が多いのでイベントとかで発掘できたかもしれない。もっと新しいイベントといいますか、掘り起こしが若干欠けていた。

青山 キラメッセは県外からも2割強ですか、データの上でも非常に広域的な集客がありました。地域連携、広域的な地域連携という意味でキラメッセがなし得なかったこと、課題について、内村さんにお尋ねします。



東部のグランドデザイン描き、役割分担を


内村 キラメッセでは市民型はもちろん全国区のイベントも開催されました。しかし一過性に終わった印象が強い。今思えば、東部が一体となったイベントは本当に少なかった。よく市内にお店を持っている方々に「我々は固定資産税を払っているのに、キラメッセでは固定資産税も払わずに商売している。不公平じゃないか」とおしかりを受けました。これからはもっと沼津にお店を持っている方にもキラメッセを使っていただいて、もう少し広い意味で連携をとった新しいイベントが生まれてくるといいですね。
  われわれの背景には富士、箱根、伊豆という素晴らしい財産があるわけですから、観光の財産、地域が持っている経済力などを総括的、複合的に使えるような深みのあるイベントが求められます。そのためには各市町の特徴を生かしたグランドデザインを描く必要がある。沼津だけでは材料が足りません。東部全体でグランドデザインを作り上げ、役割を分担してやっていくことが必要だと思っています。

青山 経済界で東部のグランドデザインを作ろうという動きが出ているようです。中山さん、触れていただけますか。

中山 先般、経済同友会のシンポジウムがあり、沼津市はじめ多くの首長さんがパネリストとして登壇されました。「グランドデザインはやっぱり必要ですね」ということで議論がありました。合併ではなくグランドデザインを作っていくということで。

青山 東條さんにお聞きします。国内外の事例を含め、新生キラメッセが国内、海外、アジアとかも視野に入れた中で、選ばれる地域であるためのアドバイスを。


企業の研修も誘致が可能だ


東條 新しくできるコンベンションセンターが今までと決定的に違うのは、会議施設とホテルが一体化してコンベンション・コンプレックス、複合施設になることです。会議場ができることで内容的にも相当な変化がある。間違いなく滞在型のコンベンションが増えてきます。同時に会議場を使った主催者が展示会場も一緒に使うようになる。そうなった時の展示と会議のバランスが取れるのか、予約を含めてよく考えておきたい。
 複合施設化は大きな強みです。沼津という伊豆半島の入り口にあるコンベンション施設が受け皿となり、地域に流していくという導入口の役割を持ちます。三位一体型のコンベンション複合施設は良い選択だと思います。
 持ってくるコンベンションを短期的、中長期的にどう考えていくかというのが次の課題です。今までの顧客を含めてこれから沼津、または東部地区が狙っていくべき外客誘致をどのようなシナリオを、ロードマップを作って5年先、10年先を考えていくのかというビジョンがどうしても必要になってきます。
  日本一使い勝手のよい、施設側が主催者の立場に沿った考えで運営していくというのは、規模にもよりますが、いい形でコンパクトにまとまった複合コンベンション施設として日本でも有数のものになる可能性がある。そこに地域らしさをどこまで持ち込めるか。地場産業や地域の強み、アフターコンベンションとのつながりなど複合的なものの中から、うまくバランスをとって誘致につなげ、定着させていく。会議施設を持てば首都圏からほぼ1時間の位置ですから、単なる会議、単なる展示ではなくて企業の研修的なものもいいターゲットになるでしょう。
  複合施設化に伴う変化は相当にドラスティックで、周りの商業活動も変わります。今までの経済活動が少しあったというところから、宿泊型のコンベンションが定着することによって人の流れ、お金が落ちる仕組みも変わってくる。施設ができる前に、どのような想定を考え、どのような受け皿を作れるかが将来の発展の鍵になります。

青山 東部地域のポテンシャルの高さはずっと言われ続けてきましたが、ポテンシャルはあくまでも潜在的な能力です。コンベンション産業を通じてポテンシャルを顕在化させるための方策を、東條さんにもうちょっと突っ込んでいただいて。

東條 これまでは展示の観点からで、営業面ではたぶんに受け身的だったと思います。今後、会議が出てきた時には、そこでやる必然性というのが重要になってきます。
 去年の夏、富山に講演に行った際、地元の人からいろんな産業の話を聞きました。富山県は鋳造では高岡が有名ですが、アルミ産業も日本、世界でも有数、IT関係の産業もあるということで国際会議、小さい会議でも国際会議がたくさんあるそうです。探せばすごくあるのに、地元の資産とうまく結び付けることはあまりやって来なかったようです。こうしたものを内からの目と外からの目で突き合わせ、顕在化させることができれば人をひきつける触媒になります。
 沼津、東部地区でもたくさんある産業の中で日本有数とか、世界に誇れるというのはまだまだあるでしょう。それをうまく内からの目と外からの目でみて、起爆剤として国際会議とか展示、国内会議もそうですが、企業系の会議などに結び付けられませんか。

青山 中山さんは東部地域の日本有数、世界有数の産業などの実態をよくご存じですし、キラメッセの運営をずっとみてきた。今までの展示産業パワーから、もっと広域、さらにナショナルへという視点に立った場合、どうすべきでしょうか。


地元は見落としていても来客には新鮮


中山 難しい質問ですが、一つはファルマバレー・プロジェクトをどう生かしていくか。医薬品関係もありますし、産業面でも力を入れています。また沼津は昔からネジ、螺子産業が盛んなので展示でも学会でもいろいろな形の会議ができるかもしれない。
  企業インセンティブでは海外から富士山を目指してこちらに来ていただく。外の方々は富士山を見てみたいと必ず言いますから、そこは生かしていく部分ですね。
  お寿司とか食文化も考えられる。伊豆地域の食材から新しい会議が生み出せるかもしれない。こういう会議があるから引っ張ってくるという発想だけではなく、こういうもので会議ができないか、どこかでやっていないかと探すことも必要だ。
  実は2月の初旬、シンクタンクの経営者会議を沼津で開きました。エクスカーションで沼津プラス三島を回りましたが、沼津でこれほどお土産物を買うのかと驚きました。御用邸記念公園でしか売っていないお土産を皆さんたくさん買われまして、次にバスで来られた方々にはありませんでした。富士山も春霞がかかって鮮明ではなかったのですが、行く先々で眺めたり写真を撮ったりしていました。外から来られる方には新鮮に映るのに、われわれは生かし切っていない感じがしました。三島では三嶋大社で正式参拝をさせていただきました。神職の方が鳥居や本殿の説明をしてくれ、参加者から好評でした。このようなものは探していくとたくさん出てくると思います。
  新生キラメッセはご承知のように展示場が25年夏、コンベンションセンターが26年夏オープンという予定です。展示ですと1年でいいのですが、コンベンションセンターの会議は10年とか12、3年とか、短くても3年は掛かりますから、もう営業を始めなければならない。そのためには展示場とコンベンションセンター会議場の運営も一つでやっていく必要がある。1年前に展示場がオープンしてしまうと、そこに催し物を入れた場合に会議場との同時使用ができませんから。その辺の兼ね合いも含めてもうスタートを切らないと。今からやっておかないと間に合いません。

青山 内村さん、三位一体で取り組む組織づくりは今、どういった状況ですか。

内村 県と市でこれからできる国際会議場、それから沼津市が造る新しい展示場、これを一体的に運用していこうということは県、市も含めてその方向性で検討しています。そこに民の考え方を入れてこれから協議していきたいと思っています。

青山 中山さんからは「いますぐ始めなきゃ、間に合わんぞ」というご発言がありました。内村さんいかがですか。

内村 23年度中には方向性を出して組織も含めてやっていかなければ、ということで動き出します。

青山 東條さんは実際の組織づくり、組織の運営ということでは国内外の事例に詳しく実務にも精通されています。成功するためのプロセスづくり、シナリオづくりについて、地方都市の取り組み例も含めて聞かせてください。


支援より先取り、提案型が主流


東條 会議は中長期的なビジョンで追っていくことになります。特に国際会議は今、競合が激しくて難しい。小さな規模であれば、3年後ぐらいが今ごろから顕在化してくる。今からマーケティングしていけば、オープニングから1年、2年のものが一番出てきやすい。
 千人を超えるような会議はもっと先、5年先ぐらいを追っていくようなローテーションになります。同時に沼津が、東部地区がどういったコンベンションを包括していくのかが重要になります。マーケティングもやみくもにやるのではなく、こういう分野のこういった内容の会議を主眼にやっていくなどのロードマップが必要です。誘致、特にマーケティングをしてセールスをするという期間が必要ですし、専門のスタッフといいますか、誘致を営業する人たちを確保、育成しないと。国際会議を狙うとなると、絶えず新規を狙っていくしかない。恒常的にマーケティング機能を強化していかなければ、新しいものを見つけることは相当に厳しい。
  マーケティングは今からでも早すぎることはない。3年後にオープンした時にヨーイドンでは、今までのような70何%もの高稼働率を展示場も維持しながら、会議場と連動して新たな需要を喚起することは難しいでしょう。
  セールス&マーケティング機能をどこが持つのかという問題もあります。日本のコンベンションビューローはセールスもしますが、どちらかというと会議が決まった後、そのお手伝いするというケースが多い。地方には支援の部分に重きを置くコンベンションビューローが多々見受けられます。国内約70うち積極的、能動的に仕掛けていって国際会議、国内会議を取っていくというのは、おそらく政令都市を中心にした10都市ぐらいではないか。これからは中小規模の都市のコンベンションビューローでもセンターでも、こちらから仕掛けていく戦略、営業戦略、マーケティング戦略が必要不可欠になってくるでしょう。
  アメリカではDMO(ディストネーション・マーケティング・オーガニゼーション)ですとか、DMC(ディストネーション・マネージメント・カンパニー)ということを最近よく使います。DMCはどちらかというと着地型の旅行を開発して来訪者に提供する民間の旅行会社に近いような形で、DMOは同時にマーケティングを専門にやる機関としてアメリカでも積極的に活躍しています。コンベンションビューローからDMOへの流れというのが今あって、来たものに支援するのではなくて先物を取っていく、その部分を強化するというのが主流になっています。
  日本でも先端的なコンベンションビューローは誘致に主力を注いでいて、支援の部分は施設とか観光協会に任せるケースが見受けられます。そこの部分を今後どうするか、どういうシステムをつくるのか。行政本体も含めてコンベンションを追っていくすみわけ、立ち位置が求められているように思います。

青山 新生キラメッセの場合、海外からの国際会議の誘致が必須でしょうか。


国際会議は国内会議の延長線上にある


東條 いえ、国際会議がすべてではありません。日本の場合は国内のマーケットが非常に大きいので業界団体であっても学術系の会議であっても、傾向としてはまず国内会議を開いてから国際に、またはアジア太平洋会議、2国間会議へと移っていきます。1回も国内会議を開いたことがない土地で、いきなり国際会議をぶつけてくるというのは今までの事例でもそれほど多くありません。ですから着実に取れる国内会議は大事にしたい。東部地域は製薬関係が立地企業としても強いということであれば、去年も製薬関係の世界団体が東京の業界団体の中に初めて設立されましたが、必ず年次大会とか年次総会が開催される。日本にある国際団体の国際総会みたいなものはわりと手につきやすい。拾い出していける。国際会議も視野に入れて狙っていけるものだと思います。国内会議の延長線上に国際会議があると考えています。

青山 コンベンション産業、コンベンションの本質はいかに外部経済を導入するかにある。必然性があれば積極的に外に出ていって呼び込むという理解でよろしいでしょうか。

東條 基本的にコンベンションは外部経済の導入が本意であって、同じ経済圏の中でお金が回ってもコンベンションの役割にはなりません。外部経済の導入というのがコンベンション施設、コンベンションビューローに課せられた一番大きな課題だと思います。

青山 歴史的なもの、地域の文化的なもの、地域のストーリーも含めて今後、新たなキラメッセをまちづくりにどう生かしていくか。内村さんにお願いします。


東部のグランドデザインにコンベンションを


内村 都市計画の分野では既に、三島市、長泉町、清水町、そして沼津市で東駿河湾広域都市計画があります。昭和46年から2市2町で一体的なまちづくりが進められ、住民も行政だけが分かれているという意識です。
  東部が新しいものを作り出して世界に発信する。それぞれの市町が持っている宝物をグランドデザインとして描いて、それを売りにしていく。沼津のこれからの役割としては商業とか業務、娯楽といった都市機能であり、来ていただいて魅力あるまちづくりを進めているのが鉄道高架をはじめとする沼津駅周辺総合整備事業です。三島市さんには新幹線の駅があり、三嶋大社をはじめ深い歴史もある。文化、教育の面では非常に高いものを持っています。長泉町さんは御殿場線沿線、裾野市さんと合わせて工場もありますし、企業誘致に成功し、若い世代の方々が住みたいという町になっています。清水町さんも富士の湧水があり、柿田川など自然を生かした住宅地になっています。それぞれが持つ良いところを集めてグランドデザインを描き、東部が一体となってイベントをはじめ活性化していければ良いまちづくりができると思います。

青山 先ほどグランドデザインについての動向を中山さんにお聞きしましたが、個人としてはどのようなものであってほしいと思いますか。

中山 いろいろなかたちでこの地域の行政さんの仕事にかかわらせていただいていますが、総合計画をみていきますと内容的なものはほぼ同じです。グランドデザインに、産業政策としてのコンベンションセンターを位置付けエンジン役とすることも、各市町が同じような方向性の総合計画を作っていますから、まとまれば一つのものができると思います。
  言わずもがなですが、かつての地方分権、今の地域主権でも地域そのものがパワーを持ち、外に向かって情報発信をしていく時代になっています。総合計画からかいつまんでもグランドデザインはすぐにでもできるでしょう。新生キラメッセのイニシャルコストはたぶん沼津市さんにご負担していただけるようですので、周辺市町の方々もおらが市、町のキラメッセとして利活用し、どんどん情報発信していく。そんな形でもグランドデザインとこの施設の利用の仕方があるのかなという気がします。

青山 組織づくり、マーケティングをはじめ、グランドデザイン実現のエンジン役への期待などいろいろなお話をいただきましたが、最後は何が必要だと思いますか。東部の人間として内村さんから。

内村 東部に住む方々の意識だと思います。東部は一つだという意識を皆さんに持っていただきたい。そこに住む方々が主役ですので、その意識を持って変わっていただきたい。行政マンは住民の方々がパフォーマンスできる舞台づくりが仕事で裏方、黒子です。住民の意識変化も含め、東部は一つでまちづくりを進めていければと思っています。

青山 キラメッセの成功体験を、考え方も戦略も変えてスケールアップしてやっていくには、最後は人間の力です。東條さんの考えをお聞かせいただけますか。


コンベンションを担う人材を育てよう


東條 コンベンション産業に従事する人材は、経験を積むというのが一番大切です。国際会議場ができ、新たな業務が発生すると思いますが、実際に活動する、営業しながら学んでいくことにならざるを得ません。5年先を見据えて人材教育をしていくことが、将来的にこの施設ないしは都市にとって本当の資産になる。
  日本のコンベンション業界における人材教育は、はっきり言ってほとんどなされていない。アジアのほかの国では大学にコンベンション関係の学科があって専門的な人材教育をしていますし、卒業してコンベンションビューローとかに勤めてからもさまざまなかたちで人材教育の課程を受けることが可能です。日本ではようやく観光庁が人材教育が不可欠として、ある程度お金は出すようなりましたが、実際に教える教員もいませんし、どういうかたちがベストなのか、日本的に合うのかということがなされていません。今やろうとすれば施設なり、コンベンションビューローごとにというのが現状で、今後の運営、地元への還元を考えた時には、今活動している方たちが再度、次に託す人たちをどう教育していくのかということになります。5年先、10年先のコンベンションセンターを核にしたまちへの貢献という意味では一番大きな鍵だといえます。

青山 国内のコンベンション施設、会議施設、展示施設にありがちな指定管理者制度は3年とか5年で、公募で代わってしまう。コンベンションを産業政策として進めるうえでは合わないという理解でよろしいでしょうか。

東條 現行の指定管理者制度は、コンベンションの側からみると矛盾しています。例えば3年単位で指定管理が代わってしまうと中長期的なビジョンが全く立てられない。怖くて3年後、5年後の予約を今いる人たちが受けられるか、なかなか責任が持てない。考え直す必要があります。

青山 この3月31日で13年間にわたるキラメッセとのかかわりを卒業される方が会場にもう一人いらっしゃいます。静岡経済研究所の大石人士さんです。

大石 もう一昔という感じですが、キラメッセがここになかったら、どうなっていたか。ペンペン草が生えているか、単なる駐車場という気もしますし、技能五輪も開かれなかった。新しいキラメッセも話がなかったのではないか。
 これからを考えますと、ホテルとか会議施設ができてグレードを上げるわけですが敷居は高くしてほしくない。やはり日本一親切で使いやすい、これだけは守ってほしい。中身的には東條さんがおっしゃった通り新しいコンベンション、国際会議ができるような施設ができてきますので、違った意味のオペレーションが必要になるでしょう。新たに運営協議会なりを担う方々に検討していっていただきたい。私も、青山さんも中山さんも14、5年前は若くて言いたいことをたくさん言わせてもらいましたので。
  新たな可能性では東部地区のランドマークになっていくことが大事だと思っています。市民の利用もそうですし、産業界の利用もそうですが、広域の拠点として利用されていくことでしょう。そこには市民とか地元の業者とか、いろいろな方がかかわりあえるような組織を作っていただいて地域一体で盛り上げていく。沼津から全国、世界に発信していけるような施設ができてくれるとうれしいです。

青山 基調講演、パネルディスカッションを通してコンベンションというのは経済活動誘発のための産業政策であり、インフラである。それはハードとしてのインフラだけではなくて、今後注力しなければならないのはソフトとしてのインフラであり、そのためには地域にある資源を生かしてその必然性、なぜこの地域に来なくてはいけないのかという必然性にまで高めなければならない。高めることによって国内会議、そして国内会議は国際会議につながっていくことができる。そのためにはまず東部広域のグランドデザインを作って、その中に新生キラメッセ、新たなコンベンション施設、コンベンション3点セットというものを位置付けて、産業政策としてグランドデザインの中にしっかりとその役割を規定しなければならない。そのためには東部人意識、東部人の覚悟が求められます。もう一つ、これは人から人へとつながっていくものです。誘致に関してもやはり人と人がやりあうこと、それだけのノウハウを持った人材が育成されない限りコンベンションの成功はないということがいえるかと思います。


 
< パネリスト >

◇内村 博隆(うちむら ひろたか)
1978年沼津市役所入庁。教育委員会市民文化センター建設室、建設部を経て都市計画部。2009年都市計画部部長。1986年から都市計画部に配属、97年には担当係長としてキラメッセぬまづの建設・管理運営に携わった。沼津市出身。58歳。


◇中山 勝(なかやま まさる)
スルガ銀行入行後、財団法人企業経営研究所出向。研究員、部長を経て2008年常務理事。現在に至る。キラメッセぬまづ運営推進協議会会長ほか、静岡県、沼津市などの委員や日本大学国際関係学部非常勤講師を務める。サンフロント21懇話会のシンクタンクTESS研究員。島田市出身。52歳。

< コーディネーター >

◇青山 茂(あおやま しげる)
オリエンタルランドを経て、現在シード副社長。日本航空民営化イベント「NewJALレセプション」、第10回全国スポーツレクリエーション祭「スポレクおきなわ」などをプロデュース。県内では伊豆新世紀創造祭、第15回海の祭典しずおか、東海道四百年祭などに参画。サンフロント21懇話会のシンクタンクTESS研究員。59歳。



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